穴窯考

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皆さんこんにちは。兵庫県西脇市の山奥(丹波立杭焼のまだもっと山奥)で焼き物をやっています。
一昨年10月から去年3月にかけて、工場近くに借りた山に穴窯を築きました。
何しろデザイン設計から材料の買出し、施工まで全て一人でしたので、半年もかかってしまったのです。
そして4月に初窯を焚き、12月に3回目の窯焚きを行いました。
この自作の穴窯のことを中心に、僕の焼き物についての話を書いていきたいと思っています。
土について

さて、焼き物をしていると、色々なところまず聞かれる質問があります。
「この品物は何焼きですか?」あなたは何焼きをしておられるの?」という質問です。
確かに焼き物は、古来から〜焼きというカテゴリーでくくられることが多いのです。
特に備前や瀬戸、萩など焼き物の町で作陶しておられる方は分かり易いのですが、僕のように全く関係のない山奥で作陶していると、「何焼きをしているのか?」というのが特にきになるらしい。
僕の場合、土地的には丹波に近いので丹波焼?
でも土は信楽焼の土を使っているので信楽焼?
答えはどちらでもないです。
昔は粘土なんて重いものを遠くまで運ぶことができなかったので、粘土の産地=焼き物の産地という常識がありました。
しかし現代、土は宅急便でどこへでも配達されていて、何焼きというカテゴリーに入らない焼き物が日本全国で焼かれることになったのです。
という説明をするのですが、実際のところは
「我流焼き」
ですかね。
窯について

僕の窯は
穴窯といいます。
皆さんも登り窯はご存知でしょう。
薪を使い、焼き物を焚き上げる登り窯を短くしたような窯です。
窯の形はかまぼこに新幹線の頭をくっつけたような形で、中は階段状になっています。丸4昼夜、薪をくべ、1250℃の熱で焼きます。
穴窯は「登り窯」ほど部屋がなく1室だけなので焼ける作品の数は多くないのですが、全体がまったりと焼けることなく激しく個性的に焼き上がります。
この非効率で扱いにくい穴窯。
僕にとってこの穴窯は作品を焼く道具であると共に、
僕の「作品」でもあるのです。
次回からはもっと詳しく窯の説明をしていきたいと思います。
焼シメについて

私が穴窯で基本的に焼いているのは
「無釉焼シメ」の器です。焼シメとは土そのものをそのまま焼くということで、釉薬、つまり土の表面にガラスコーティングすることなく焼き上げるものです。
原始に焼き物が焼き始められたころ、この焼シメからスタートしたのです。その後釉薬という器をより強固にするコーティングが発明され、様々に変化してきたのです。私の考える焼シメは、土のもつ力そのものを最もストレートな形で表現しうる手段として有効であると、そして穴窯という道具を用いて焼き上げる、自分のスタイルに合っているということです。
穴窯の中で走り回る炎が、器の表面(土そのものの表面)に焼きついて、様々な景色を見せてくれる。その製作者でさえも、炎の中に手を入れることなく、最大限、最良を尽くすことしかできない。そんな別な何かが創り出す器を焼きシメで表現したいのです。
私の穴窯

穴窯は作品である」
これが私の持論です。もちろん器作り、器も作品なのですが、それを焼シメで焼く窯こそが、その製作の原点であり、大部分を占めると言っても過言ではないのです。もちろん電気やガスなど炎にむらの少ない窯は、その割合を下げるとは思いますが。穴窯リストにとっては、何よりそのデザイン(機能性)が、自分の思う焼き物を焼くカギとなってくるのです。
窯は人それぞれの目指す作品が違うように、窯の形、焚き方、詰め方などそれぞれで当然なのです。10人いれば10人ともが自由な発想でいい。私の窯は奥行き3m、幅1.5m、高さ0.9mの新幹線の頭のような形をしています。勾配は1mいって28cm高くなる角度。ドラム缶を横に寝かせたような捨て間も1つ備え、毎回100〜200点ぐらいの作品を焼きます。レンガは2500ぐらい使いました。比較的小さな窯ですね。半年ほどかけて造りました。
私の窯の場合、まず考えたのは温度がきちんと上がること。土が焼き物に変わるのには1200〜1300℃という高温が必要です。その温度を得やすい、上がり易い窯。そして窯口から煙突へ抜ける勢いの強い、これは明るい火色を狙うため。さらに天井を低くして、窯変に有効な灰を作品になるべく圧して降りかかるよう、自分の作品の大きさや形、狙う景色を計算に入れて築窯しました。
自分の窯を持つ(造る)とは、自分の作品作りの第一歩です。これにもちろん器を作る技術やデザイン、そして窯詰め、窯焚きなど、総合的にやっていかなくてはいけないですし、また、これら全てを満足にこなしたとしても、人知の及ばぬもの「炎の世界」の力を思い知らねばいけないでしょう。「予定された偶然性」こんな言い方をされるんですが、人(作家)のできることは全て予定(こうなればいいな)にすぎない。生まれる時に偶然による炎の力を借りて、土は焼き物(作品)として生まれることができるのです。
窯ヅメ

今回は窯ヅメの話です。窯ヅメはその名の通り、作品を窯の中に配置し、焼成するための前段階です。しかし薪の窯を使う私にとっては、
焼成の成功、出来不出来を70%ぐらいまで決定してしまう、非常に貴重な作業になります。例えば温度の上がり具合も窯の中の障害物(作品)の場所によって変わってくるし、当然景色をコントロールするのも窯ヅメのやり方次第なのです。したがって私の場合、焼成は4日間ですが、窯ヅメは5日間はかかります。(なにもかも一人でやるからかも知れない)ゆっくり火のまわりをイメージしながら詰めていく作業は頭を使い、重い棚板をつむのは体力を使います。つまり、窯ヅメは、ただ単に窯に作品をつめて焼く準備をするのではなく、轆轤や窯焚きと同じく、いやそれ以上に創造的な仕事であると思います。
ところで皆さんは、焼き物の窯ヅメを見たありますか?ガス窯や電気窯の機械窯での窯ヅメは比較的簡単です。デザインもそのように作られています。しかし薪窯は、炎の流れによってデザインにされているため、大抵狭い穴ぐらのようなところでの作業になります。奥の方からレンガを積み、棚を積んで作品を並べていく。天井が低い場合は大抵中腰です。私の窯なんか、床に座布団をひいて寝転びながら詰めます。この不自然な体勢のきついことといったらありません。前述のように、決して手を抜ける作業ではないので、いつも終わってから一気に腰にきますが、いよいよ焼成が待っているので、気も抜けないのがいつもの感じです。また窯ヅメは、同じ薪窯でも地域や個人差によって様々で、一定のルールやタブーもないし、ただその方法や結果が焼き上がった作品に表れます。よく陶芸家の方でも窯ヅメを秘密にされおられますが、まさにその秘伝が窯ヅメに集約されているからです。
窯ヅメは、作品との関係も非常に強いものがあります。私の場合も作品を作る段階からある程度、窯ヅメの場所を想定しています。こうすることにより、無駄なく思い通りの焼き上がりを計算できる可能性を上げれると思います。昔、借窯をよくしていましたが
それは窯ヅメを想定して作品作りができないのが最大のネックになっていました。こうして今一度考えてみると、成形、窯ヅメ、焼成は一連の流れの中でのひとつであり、それぞれがバラバラでは個の器を作る上では成りえないと思います。
さて、次回は成形、窯ヅメまでうまくいき、70パーセントまで完成されても、30パーセントが残っています。実際の焼成について書いてみることにします。


古汲窯
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